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Just Ask: デザインプロセスを通じて取り組むアクセシビリティ

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基本: 障害者によるプロジェクトへの参加

本書のパートⅡは、ユーザビリティの専門家が、アクセシブルな設計慣行をユーザー中心設計(UCD)プロセスに組み込むために役に立つ情報を提供することに重点が置かれています。しかし、本書の情報を活用するために、自分自身がユーザビリティの専門家である必要はなく、UCDを行う必要はありません。本章は、障害者の設計プロジェクトへの参加に関しての近道を説明しています。

ほとんどの製品には、製品を確実にアクセシブルなものとして設計するための基礎的な手順となる、アクセシビリティの標準またはガイドラインがあります。たとえば、W3C WAIのWeb Content Accessibility Guidelines(WCAG)は、WebサイトおよびWebアプリケーションに関する包括的な基準を示したものです。「設計段階」の章では、アクセシビリティ・ガイドラインを設計において使用する重要性に関して説明しています。

しかし、標準およびガイドラインは、アクセシブルな製品を効果的に開発するための方程式の一部にしか過ぎません。残りの部分は、アクセシビリティの問題を理解することであり、その最も良い方法は、障害者がどのように製品を使用するかに関して、障害者と協力して学ぶことです。

簡単な背景および例

製品のアクセシビリティに関する簡単な概要に関しては、「背景:アクセシビリティおよびユーザー中心設計(UCD)」セクションの「アクセシビリティとは何か?」を参照してください。 Webアクセシビリティの具体的な説明に関しては、「Webアクセシビリティを理解する」を参照してください。

障害者の中には、製品の使い勝手を良くするために、ソフトウェアやハードウェアを用いた支援技術を使用している人がいます。支援技術の例として、目の見えない人や文章を読めない人向けに、コンピュータの画面の内容を音声で読むスクリーン・リーダー、およびキーボードやマウスを使えない人向けの音声入力ソフトウェアおよびスイッチがあります。支援技術の正式な定義は、「既製品か改良品かカスタマイズ品かに関わらず、障害者の機能的な能力を増大、維持、あるいは改善するために使用されるモノ、機器、製品、システム、またはソフトウェア」です。

次の事例に進む前に、簡単に背景を説明します。スクリーン・リーダーがWebページ上の画像に行き着くと「代替テキスト」を読み上げます。これは、画像が視覚的に提供するものと同じ情報を提供するものです。Web制作者は、Webページを作成する際に、代替テキストを書き込みます。

スクリーン・リーダーを使用していた1人のユーザーは、あるWebサイトの公園に関するセクションをテストしているときに、「電気のこぎり、リス、サイクリング?ひどい話だな」と叫びました。3つの連続した画像には、「電気のこぎり」、「リス」、および「サイクリング」という代替テキストが付けられていました。しかし、対応する画像は、「森林管理」、「野生生物の保護」、および「アウトドア活動」でした。

上記の画像の代替テキストは、アクセシビリティの標準を満たしてはいましたが、優れたユーザー体験を提供してはいませんでした。本章では、障害者をプロジェクトへ参加させることによりユーザー体験を向上させる方法に関して説明します。

高いROI(投資対効果)

プロジェクトチームに障害者を参加させることは、気が遠くなる提案のように思えるかもしれません。また、小規模な一部のプロジェクトの場合は実現性がないかもしれませんが、できるのであれば、努力する価値はあります。Web制作に障害者を参加させるためにちょっと努力すれば、次のような多くの利点を得ることができるでしょう。

始めましょう

最初に、障害が製品の使用にどのような影響を与えるかを少し学びましょう。Webでは多くの無料の参考文献を見つけることができます。たとえば、「障害者によるWebの使用形態」では、Webサイトを制作する人にとって、さまざまな障害がWebの使用にどのような影響を及ぼすかに関して詳しく説明し、Webを使用する障害者のシナリオが含まれています。また、「スクリーン・リーダーの紹介」では、短いビデオを使って説明しています。

余裕のある企業は、さまざまな障害を持つ人がどのように製品を使用するかに関して実体験を持つアクセシビリティコンサルタントや従業員からトレーニングを受けることもできるでしょう。

われわれは、障害者がどのように製品を使用するかに関して設計者が基本を学ぶための短時間の対話形式ワークショップを実施しています。この中には、ビデオ、実際の活動、および障害者と話をするチャンスが含まれます。ワークショップは発見の連続であり楽しいものであり、設計者は製品においてアクセシビリティに取り組むことに関して本気でやる気が出ます。

ビデオおよび資料のリストに関しては、「補遺: 参考文献」の「障害者によるコンピュータの使用方法を理解する」も参照してください。

障害者を探す

次のステップは、数人の障害者を探すことです。障害者を探す場合の連絡先のリストに関しては、「ユーザビリティ・テストの計画」の「障害を持つ参加者のリクルート」を参照してください。対象とするユーザーに近い人を探してください。たとえば、大学の学費ローンを申請するWebサイトの場合、80歳の人よりも18歳のユーザーを探すほうが良いでしょう。

自社の製品と同様の製品の使用にかなり慣れた人を探してください。支援技術を用いて製品を使用してもらいたい場合、支援技術を使用するスキルのある人が望まれます。テストの後半では初心者を参加させることもできますが、初期の段階では、いろいろなことをきちんと伝えることができる人のほうが良いでしょう。

さまざまな障害および特性を持つ人に参加してもらってください。障害者は、他の人と同様に多様性があります。使用する対話テクニック、適応手段、支援技術の形態は多種多様です。障害には、視覚的、聴覚的、身体的、会話、認識、神経など、さまざまなものがあり、複数の障害がある人もたくさんいます。

このように多様性があるため、さまざまな障害のある複数のユーザーを参加させることが理想的ですが、実施には、時間と資金の制限によりユーザーの数は限られるでしょう。多様性を網羅した包括的なガイドラインまたは標準を使用することが重要なのは、そのためです。

1人しか参加させることができない場合でも、参加させてください。「分析段階」の章の「個々人の違い」を参照してください。1人のユーザーがすべてのユーザーを代表していると推測したり、1人の障害者からのフィードバックがすべての障害者に適用されると推測したりすることを避ける旨が記載されています。

プロジェクトに参加させる障害者を選ぶ場合の詳しいガイダンスに関しては、「ユーザビリティ・テストの計画」の「参加者の特性の判断」を参照してください。そのセクションは、ユーザビリティ・テストに関するセクションですが、ほとんどの内容はユーザーをプロジェクトの初期段階で参加させる場合に適用されます。

支援技術および場所

障害者をリクルートし、障害者と協力して計画を立てる場合、支援技術を用いて製品を使用するケースでは、それを手配する必要があることを忘れないでください。本人が使用している支援技術をテスト場所に持ってきてもらえばベストですが、それができない場合は、支援技術を手配することになります。しかし、多くの支援技術は、非常に高価であり、デモ版は限られています。

ユーザーに来てもらうよりは、ユーザーの職場あるいは自宅に出向くことがいい場合もあります。この欠点は、プロジェクトチームにおいて、ユーザーと直接対話できるメンバーの数が減ることです。詳しくは、「ユーザビリティ・テストの計画」の章の「最適な場所の選択」を参照してください。

障害者から学ぶ

ユーザーと一緒にテストを行う際、椅子、コンピュータ、支援技術などを、必ずユーザーが好む形でセットアップしてください。次に、まず、ユーザー本人にあっている類似製品をいくつか見せてもらいます。これを最初に行うことが重要です。というのは、皆さんは何をどうすればうまく行くのかに関してヒントを得ることができ、ユーザーはセットアップが期待どおりにできていることが確認できるからです。何をどうすればうまく行くかを学ぶために、たくさん質問してください。

次に、ユーザーにあっていないものを見せてもらいます。問題はおそらく製品の設計にあることを念頭に置いてください。ただし、ユーザーが支援技術の初心者である場合、支援技術をうまく製品に利用する方法を本人が知らない可能性もあります。

既存の製品を再設計する場合、それをどのように使用しているかを見せてもらってください。製品を再設計する方法に関して既にアイディアを持っている場合、同様の設計の製品をユーザーに使用してもらってください。「設計段階」の章の「サンプル製品の評価」も参照してください。

ユーザーに何をしてもらいたいかを早めに伝えてください。どのような種類の製品を準備できるかに関しても伝えてください。ユーザーが、類似した製品を持っている場合は、アクセシビリティの良い例と悪い例を示すために、それを持ってきてもらえるかどうか尋ねてください。ボタン設計やメニューナビゲーションなど、皆さんが的を絞りたい事柄がある場合は、それを伝えてください。準備がきちんとできていればできているほど、より多くのことを学ぶことができます。

最大限の利益を得る

ユーザーとの時間を最大限活かすために、設計者およびマネージャーを含め、プロジェクトの数人のメンバーに参加を促してください。その場に立ち会うことができないメンバーに見せるために、ビデオテープの録画を撮ることも検討してください。もちろん、録画されることを気にしないユーザーを見つけ、ビデオテープの録画を開始する前に同意書に署名してもらってください。障害者の中には、多くの人がビデオを見てアクセシビリティに関して学ぶことを高く評価する人もいれば、複数の人から見られたり、ビデオテープに撮られたりすることを嫌がる人もいます。

アクセシビリティの問題を理解するために、初期段階でユーザーをプロジェクトに参加させることに加え、プロトタイプの開発が進んだら、障害のあるユーザーをプロジェクト全体に参加させてください。自分が考えているアイディアがあったら、ユーザーにテストしてもらってください。そうすることにより、開発プロセスを本格的に進める前に、必要な修正を行うことができます。

障害者の参加の詳細に関しては、「アクセシビリティのユーザビリティ・テスト」の章を参照してください。正式なユーザビリティ・テストのために書かれていますので、プロジェクト開発の初期の段階における非公式の対話には該当しない部分があります。しかし、機能を使いやすくすること、部屋を整えること、特定の障害を持つ人とのやり取りなど、ほとんどは該当します。

障害者によるプロジェクトへの参加において、考慮すべきことはたくさんありますが、すべてのことを完璧にやろうと悩む必要はありません。相手を尊重する限り、ほとんどの障害者は、皆さんの努力を評価し、ちょっとしたミスを気にすることはありません。

われわれが障害者の方に初めてプロジェクトに参加していただいたとき、今回は初めての試みなので、あらゆるアドバイスを聞きたいということを伝えました。われわれは、多くの情報を得ることができ、そして物事がスムーズに進まなかった時でも根気よく付き合ってもらえました。

次の章では、障害者との対話を快適に進めるためのガイダンスをいくつか示します。

参考文献

本章の一部の情報は、下記の文献で過去に出版されています。


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